(1)相続人の範囲
Q 弟が津波で亡くなりましたが、誰が弟の財産を相続するのかわかりません。
A 弟さんに妻がいれば、常に相続人になります。弟さんに子どもがいれば、子どもと妻が相続人になります。子どもがおらず親がいれば、親と妻が相続人となり、さらに、弟さんに親も子どもも孫(代襲相続については後述)もいなければ、妻とあなた(兄弟姉妹)が相続します。
【解説】
被相続人(=相続される人)が亡くなったときに、相続する権利がある人を法定相続人といい、法定相続人は次の親族です。
・配偶者(妻や夫のこと)→常に相続人になる
・子や孫などの直系卑属(第1順位)
・親や祖父母の直系尊属(第2順位)
・兄弟姉妹(第3順位)
第1順位の人(上の例だと、弟さんの子ども)がいなければ第2順位の人(上の例だと弟さんの親)が相続し、第2順位の人がいなければ第3順位の人(弟さんの兄弟姉妹)が相続します。同じ順位の人が複数いれば同順位となります。弟さんの子どもが先に死んでいても、その弟さんの子どもに更に子どもがいれば(弟さんからみて孫)弟さんの財産を相続できます(代襲相続)。この代襲相続はどこまでも繰り下がります。第3順位の兄弟姉妹の代襲相続は1回だけなので、甥、姪までが相続人になります。
(2)相続の種類
Q 父が津波で亡くなりました。父には借金があるのですが、何もしないままにしておくとどうなるのですか。
A そのままにしておくと、お父さんの財産、権利・義務を全て相続人が相続することになります。したがって、何もしないままにしておくと、借金があっても相続することになります。対処する方法としては、以下の解説にある相続放棄、限定承認を検討されてはいかがでしょうか。
【解説】
人が亡くなると同時に相続が開始し、相続人は相続するかについて以下の3つから選ぶことができます。
・単純承認:被相続人の財産、権利・義務を全て受け継ぐ
・相続放棄:被相続人の財産、権利・義務を全て放棄する
・限定承認:相続によって得たプラスの財産・権利の限度で被相続人の負債・義務を受け継ぐ
相続人が、自分のために相続が開始したことを知って3か月経過すると、原則として単純承認をしたことになります。
したがって、相続を放棄あるいは限定承認する人は、3か月の熟慮期間内に手続きをする必要があります。相続放棄あるいは限定承認の申立ては、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。なお、限定承認は、相続人(相続放棄をした人は除きます)全員でしなければなりませんので、ご注意ください。
なお、この3か月の熟慮期間ですが、特例法が成立し、平成23年11月30日まで延長されました。震災のために相続放棄等の手続きができなかった場合にも対応するため、平成22年12月11日以降に相続があったことを知った被災者にも適用があります。ただし、注意して頂きたいのは、相続人が被災者(被災地域に住んでいる人)であることが必要です。地震の日の3月11日に被災地に住んでいればよく、その後に住所を被災地域以外に移したとしても大丈夫です。
詳しくは、法務省のホームページをご覧ください。
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00092.html(東日本大震災の被災者である相続人について、相続放棄等の熟慮期間を延長する法律が成立しました)
(3)同時死亡・認定死亡・失踪宣告
Q 【事例】 私は30歳の主婦ですが、35歳の夫がいました。先日の震災の津波により、家が流され、その際に夫と夫の父(義理の父)が被害に遭い、2人とも遺体すら未だに見つかっていません。
私は、夫と暮らしていた家も流され、働く場所もないため、当座のお金が必要な状況です。
そんな折、義理の父が、4000万円の預貯金を残していたことを知りました。
私は、この義理の父の預貯金を相続できるのでしょうか。
また、夫は、国民年金に加入していましたので、死亡すると遺族年金がもらえるはずなのですが、遺体も見つかっていない状況では、私は、遺族年金はもらえないのでしょうか。
A まず、義理の父の預貯金についてお答えします。結論として、あなた自身は相続することはできないと考えられます。
【解説】
義理の父の預貯金を誰かが相続するためには、その前提として、義理の父が亡くなったということが前提となります。
そして、あなたは義理の父の直接の相続人ではありませんので、あなたが義理の父の預貯金を取得するためには、@その財産を夫が相続し、A夫の財産をあなたが相続する、という段階を経ることが必要となります。
@ 死亡届
人が亡くなった場合、通常は死亡届を提出します。死亡届は、原則として、死亡診断書等を添付して提出しなければなりませんので、遺体が見つかっておらず死亡診断書が作成されていない場合には、複雑な手続きをとらなければなりません。
今回の震災では、遺体が見つかっていなくても法務省が定める各種書類を用意すれば、死亡届を提出することができるようになりました。詳しくは、法務省のホームページをご覧ください。
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji04_00026.html(御遺体が発見されていない場合でも死亡届を提出できます)
なお、この手続きによって死亡届を提出する場合、「死亡したとき」欄には「平成23年3月11日午後不詳」と記載することになります(法務省民一第1364号)。
A 認定死亡・失踪宣告
法律上、人が亡くなったといえるためには、死亡届の提出の他に、認定死亡、または失踪宣告という方法をとることが考えられます。
しかし、ともに時間と手間のかかる手続きとなっているので、今回の震災では利用しにくいでしょう。
B 同時死亡の推定
義理の父と同様に夫についても死亡届が受理された場合、夫と義理の父は同じ震災に遭っているため、同時に亡くなったものと推定されます(同時死亡の推定)。この場合、同時に死亡した人相互に相続は発生しないものとされます。したがって、義理の父の預貯金を夫が相続することはないので、あなたは、夫から義理の父の預貯金を相続することはできません。
しかし、あなたと夫との間に子がいれば、その子が夫に代わって、義理の父の財産を相続します(代襲相続)。子の相続分は、夫が生きていれば相続するはずだった割合と同じとなります。今回のケースでは、預貯金4000万円のうち2000万円は義理の母(夫の母)が相続し、残った2000万円を夫の兄と夫の子がそれぞれ1000万円ずつ相続することになります。
次に、遺体が見つかっていない状況で遺族年金を受け取ることができるかどうかについてお答えします。
本来は、1で解説したように、各種書類を揃えた上で死亡届を提出するか、認定死亡または失踪宣告という手続を経なければ、夫が死亡したものとして取り扱われることはありません。
そして、認定死亡の取扱いがされるためにはそのための書類である「死亡の報告書」(戸籍法89条)が必要となりますが、今回の震災で遺体が見つかっていない方についてそのような書類を関係省庁が用意できるかどうか、いまだはっきりしていません(現在までに認定死亡の取扱いがされたケースはないようです)。
ただし、本年5月2日に成立した東日本大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律では、震災で行方不明となり、3カ月間生死が分からない場合には、厚生年金保険法などの各年金法上は死亡したと推定できることが盛り込まれました。
したがって、年金との関係では、今回の震災で夫の生死が分からなくなってから3か月以上経っていれば、遺族年金等の請求をすることができます。
(1)相続財産一般
A 原則として、亡くなった方(被相続人)が所有されていた財産を含む全ての権利義務が相続財産になります。
【解説】
相続が開始すると、相続人は、被相続人に属していた一切の権利義務を承継することになります。物やお金だけでなく、不動産の賃借権等の権利や、借金等の債務がある場合はそれも相続の対象となります。
ただし、特定の個人(この場合は被相続人)に専属する権利義務(いわゆる一身専属権)は含まれません。例えば、生活保護を受ける権利は相続することができませんし、被相続人が誰かの身元保証人になっていたとしても、相続人がその義務を引き継ぐことはありません。また、仏壇やお墓については、相続人ではなく、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継することとされています。
詳細はNPOリーガルネットワークの紹介弁護士等にご相談下さい。
なお、「遺産」という言い方もありますが、相続財産と同じ意味です。
(2)弔慰金、支援金、義援金の相続財産性
Q 弔慰金・支援金・義援金とは何ですか?どこが違うのですか。
A いずれも被災者の方に支給されるお金ですが、実施主体や支給の対象などが異なります。詳細については、震災当時(平成23年3月11日時点)にお住まいだった市町村の役場にお問い合わせ下さい。
【解説】
@ 災害弔慰金
弔意の気持ちを表すためにご遺族に支給されるお金を弔慰金といいますが、震災後よく耳にする災害弔慰金は、「災害弔慰金の支給等に関する法律」に基づいて、市町村から自然災害に遭って亡くなった方の遺族に対して支払われる弔慰金です。自治体によっては、独自の上乗せを行っている場合もあります。
なお、支給対象に亡くなった方の兄弟姉妹が含まれないことが問題になっていましたが(ただし、条例で独自に含めている自治体もあります。)、この点については、近々法改正により手当てがなされる見込みです。
※ 厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/bunya/seikatsuhogo/saigaikyujo4.html
A 被災者生活再建支援金
一般に、被災者生活再建支援金を省略して、支援金と呼ぶことがあります。被災者生活再建支援金は、自然災害により自宅が全壊またはそれに近い状態になった世帯や、住宅が半壊しその住宅をやむを得ず解体した世帯等に対して、被災者生活再建支援法に基づいて給付されるお金です。支給額は、住宅の被害程度に応じて支給される支援金(基礎支援金)と住宅の再建方法に応じて支給される支援金(加算支援金)との合計額となります。
※ 内閣府 http://www.bousai.go.jp/hou/shiensya.html
※ 財団法人都道府県会館 http://www.tkai.jp/shienjigyo/index.html
B 義援金
義援金は、災害により被害を受けた方たちの支援等のために寄付されるお金です。日本赤十字社等が一括して集め、義援金配分委員会の決定に基づいて、市町村を通じて死亡・行方不明者のいる世帯、住宅が全・半壊した世帯、原発事故による避難世帯等に配分されます。
※ 日本赤十字社 http://www.jrc.or.jp/l2/Vcms2_00002320.html
Q 岩手県在住の姉夫婦には子供がなく、親族は私一人です。このたびの震災で義兄が亡くなり、姉が災害弔慰金を受け取る予定でしたが、申請前に姉も病死してしまいました。私は、姉が義兄の相続人としてもらうはずだった災害弔慰金を受け取ることはできますか。支援金や義援金についてはどうですか。
A できません。支援金や義援金についても同様です。
【解説】
死亡弔慰金は、ご遺族の方にお見舞金として特別に給付されるお金と言われています。そのため、ご遺族の方が権利として有しているものではなく、ご遺族の方が亡くなった場合でも、弔慰金を受け取る権利が相続財産に含まれることはないと考えられています。したがって、 相続人が災害弔慰金の給付を受けることはできません。
被災者生活再建支援金や義援金についても同様です。
Q 私の父は宮城県在住で、家が全壊したため義援金を申請していましたが、義援金が父名義の普通預金口座に振り込まれた直後に病死してしまいました。相続人の私は東京都在住で、地震の被害は特に受けていません。相続人は義援金を受け取ることができないと聞いたのですが、父の受け取った義援金はどうなるのでしょうか。
A 既に口座に振り込まれた義援金は返還する必要はなく、他のお金と一緒に相続財産となります。
【解説】
既に給付された分については、被相続人の固有の財産となっていますので、返還する必要はありません。その場合、使わずに残っている分があれば、預金債権や現金として通常どおり相続財産になります。
(3)各種保険金の相続財産性
Q 生命保険に入っていた人(保険契約者)と被保険者とが同一であるケースで、今回の災害で、保険契約者だけでなく保険金の指定受取人も死んでしまった場合、誰が保険金を受け取れるのですか。
A 保険契約者が先に亡くなった場合は、受取人の保険金請求権が相続財産となりますので、他の財産と同様、受取人の相続人が承継することになります。一方、受取人が先に亡くなった場合は、通常、保険金受取人の相続人が保険金を受け取ることになります。
【解説】
1 被保険者が先に亡くなった場合
誰が保険金を受け取れるかは、被保険者と受取人の死亡の先後関係によって変わります。保険契約者が先に亡くなった場合、受取人が保険金請求権を一旦取得してから亡くなったことになりますので、その請求権が受取人の遺産の一部になります。したがって、亡くなった 受取人の他の財産と同様に、相続人が相続により取得することになります。
2 受取人が先に亡くなった場合
一方、受取人が先に亡くなり、保険契約者も新しい受取人を指定しないまま亡くなった場合に、誰が受取人となるかは、保険会社の定める約款によって決まります。この点、約款で、 受取人の死亡時の法定相続人を受取人とすると定められていることが多いと思われます。法定相続人が複数いる場合の受取割合については、均等とする会社と、法定相続割合によるとする会社があるようですので、確認が必要です。
2の場合、1と異なって、亡くなった受取人の相続人自身が新しく受取人となって保険金を受け取ることになりますので、保険金請求権は遺産ではなく相続人自身の財産になります。 相続放棄をした法定相続人であっても、保険を受け取ることができます。
3 どちらが先に亡くなったか分からない場合
保険契約者と受取人のどちらが先に亡くなったか分からない場合、両者は同時に死亡したと推定されます。
この場合、保険金受取人の法定相続人が新たに受取人となって保険金を受け取れるというのが判例です。ただし、被保険者が受取人の法定相続人であった場合、被保険者は上記の場合の受取人には含まれませんので、被保険者の相続人で受取人の相続人ではない人は、保険金を受け取ることはできません。例えば、夫婦のうち夫が生命保険契約をして妻を受取人にした場合で、夫婦間に子供がなく、夫婦が同時死亡した場合には、夫の死亡によって発生する保険金はすべて妻の相続人にいきます。
Q 震災で父が亡くなり、父名義の自宅も全壊しました。父は自分を被保険者とする生命保険に入っており、その受取人は私になっていました。また、父は地震保険にも加入していました。これらの保険金には相続税がかかるのですか。なお、母はずっと前に亡くなっており、私の他に兄弟もいなかったため、私が父の唯一の相続人です。
A 生命保険についても、地震保険についても、相続税が課される可能性があります。
【解説】
1 生命保険金について
死亡保険金については、例外的な場合を除き、相続財産ではなく相続人固有の財産になりますが、税法上は、いわゆる「みなし相続財産」として相続税の課税対象になります(ただし、被相続人が負担した保険料に対応する部分に限ります。)。
なお、死亡保険金の場合、以下のような非課税限度枠があり、これを超える部分についてのみ相続税の対象とされます。
ご相談のケースでは、法定相続人の数が1人であるため、受け取る保険金の額が500万円以内であれば、相続税はかかりません。
500万円×法定相続人の数(ただし、養子については制限あり)
500万円を超える場合でも、実際に相続税がかかるか、また、かかるとして幾らになるかは、相続財産の総額など個別の事案によって異なります。詳細は、税理士にお問い合せ下さい。
2 地震保険について
地震保険の保険金は、保険対象物の家屋や家財に保険をかけていた人(保険契約者)または被保険者に支払われます。保険金請求権を有する人が地震で亡くなった場合、その保険金請求権も相続財産になりますので、相続税の課税対象となります。
ただ、1の場合と同様、実際に相続税がかかるかは個別の事案によりますので、税理士にご相談ください。
Q 高齢の母の名義だった自宅が震災で全壊しましたが、地震保険に入っていたため、先日保険金を受け取ることができました。この保険金で新しい家を建て、所有者を私にして登記したいのですが、税金はかかりますか。
A 贈与税がかかる可能性があります。
【解説】
お母様から金銭の贈与を受けたことになりますので、贈与を受けた側すなわち相談者の方に贈与税がかかります。ただ、親から住宅取得資金の贈与を受ける場合、各種の特例が適用される可能性があります。詳細は税理士にご相談下さい。
(4) 原子力損害による補償金の相続財産性
Q 今回の原子力発電所の事故により一緒に避難していた父が死亡しました。東京電力から父が受領するはずであった「原子力損害による補償金」は相続の対象になりますか。亡くなった父に代わって仮払補償金を請求することはできますか。
A
@ 原子力損害による補償金
「原子力損害による補償金」とは、民法上の不法行為に基づき賠償される損害金です。被害を受けた方は、原発事故と相当因果関係にある損害を「原子力損害」として、加害者である東京電力に請求することが出来ます。避難や避難生活のために必要な費用はもちろんのこと精神的苦痛なども損害となり賠償請求することが出来ます。また、後述する仮払補償金は、便宜上、世帯ごとに支払がされていますが(一世帯あたり100万円。単身世帯75万円)、本来、補償金の計算は、世帯単位ではなく、被害を受けた個々の被害者ごとに行います。なお、国(文部科学省)は、原子力損害かどうかの判断を容易かつ迅速化するため、原子力損害賠償紛争審査会を設け、原子力損害の範囲等の基準について指針を設けており、平成23年6月末日現在、第2次指針(追補)までが公表されています。
A補償金の相続財産性
原子力損害による補償金は、民法上の不法行為に基づく損害賠償請求権であり相続財産となります。したがって、亡くなったお父様が受領するはずであった補償金は、あなたを含めた相続人に承継され、東京電力に請求することが可能です。
B仮払補償金請求の可否
補償金の発生時期は不法行為時である原発事故が発生した時であり、本来、被害を受けた方に即時に支払われるべきものです。しかしながら、いまだ原発事故は収束せず日々損害は発生し続けている状態であり、また、極めて多数の被害者に様々な種類の損害を認定して支払をしなければならないこともあって、補償金の支払までに相当な時間がかかることが予想されます。そのため、被害者を早期に救済する必要があることも考慮し、東京電力の判断で、現在、損害の一部について具体的な認定を行わず、あるいは簡易化して補償金の仮払いが行われています。仮払いは、東京電力の判断で行われるものですから、死亡した被害者の補償金を仮払してもらえるかどうかについても、東京電力の判断次第です。一度、直接、東京電力に問い合わせ(東京電力福島原子力補償相談室(コールセンター)0120-926-404 受付時間9時〜21時)されることをお勧めします。
Q 夫が借金を残して死亡しました。私が夫の借金を返済しなければならないのでしょうか。相続人は私と息子のみです。夫の両親は既に他界していますが、夫には弟が一人おり、現在も元気にしています。
A 相続を放棄できれば、妻が夫の借金を返済する必要はありません。また、相続した財産の限度で返済すれば足りる「限定承認」という制度もあります。
【解説】
1 相続放棄・限定承認
相続放棄とは、相続を放棄した者は、初めから相続人ではなかったとみなされ(民法939条)、亡くなられた方の財産や負債を引き継がないとする制度です。
法定相続人である妻と子が夫の借金を受け継がないようにするためには、ともに相続を放棄することが考えられます。また、妻と子が相続を放棄すると、この二人が初めから相続人ではなかったことになるので、相続人の範囲が変更されます。この結果、夫の弟が相続人となるので、夫の弟も相続を放棄する必要があります。
限定承認とは、相続人が相続財産の限度においてのみ被相続人の負債について責任を負担するものです(民法922条)。
相続財産や借金の額が明らかではなく、相続を放棄すべきか判断できないような場合に、限定承認をする意味があります。
限定承認は、相続人全員で行う必要があります(民法923条)。
2 相続放棄等の期間の制限
相続放棄や限定承認は「自己のために相続の開始があったことを知った時」から 3か月以内に行う必要があります。
妻や子が相続人になったことを知った時から3か月を過ぎると、原則として、相続の放棄や限定承認ができなくなります。
ただし、通常の3か月の期間が経過したとしても、相続財産が全くないと誤信したことに相当の理由があるなどの特別な事情がある場合には、相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識したときまたは通常これを認識しうべき時から、3か月の熟慮期間を起算することが認められることがあります。
今回の震災では、津波の影響で資料が離散したり、避難を強いられたりしたため、相続財産の把握が困難なケースが多いと思われます。ですので、まずは弁護士に相談することをお勧めします。
なお、東日本大震災の被災者である相続人には、原則として、相続を放棄するか限定承認するかどうか判断する期間を平成23年11月30日まで延長する法律が成立しています。詳しい内容は、弁護士に相談してください。
また、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内であれば、家庭裁判所に対し、相続放棄ができる期間を(通常1年程度)伸長するよう求めることができます(民法915条1項ただし書)。
なお、被相続人の財産を処分するなどしてしまうと、単純承認とみなされ、相続の放棄ができなくなりますので、注意が必要です。
A 原則として受け取れます。
生命保険金は生命保険の受取人に直接支払われるもので、通常、亡くなられた方の相続財産ではないため、生命保険の受取人が相続を放棄しても、保険金を受け取ることができます。これは、生命保険の契約上、受取人が「相続人」に指定されている場合も同様です。
ただし、亡くなられた方自身が生命保険金の受取人に指定されている場合、保険金は相続財産となりますので、放棄すれば受け取れません。
A 遺族年金は、亡くなられた方の財産(相続財産)ではなく、受取人の固有の権利ですので、相続を放棄しても、遺族年金を受け取ることができます。
Q 相続を放棄すると、弔慰金、支援金、義援金は、受け取れなくなるのですか。
A 弔慰金、義援金は、亡くなられた方の親族に直接支払われるもので、亡くなられた方の相続財産ではないことから、相続を放棄しても、これらを受け取ることができます。また、被災者生活再建支援法に基づく支援金についても同様です。
Q 死亡した父の預金を払い戻して生活費にあてています。相続放棄はできますか。
A 相続放棄ができなくなる可能性があります。
相続を一度認めてしまう(単純承認といいます。民法920条)と、相続の放棄をすることが出来なくなります。そして、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときには、相続を認めたものとみなされ(民法921条1号)、相続放棄ができなくなります。
預金を払い戻して生活費にあてた場合、相続財産の一部を処分したことになるので、相続放棄ができなくなる可能性があります。
Q 父が死亡したため、簡単な形見分けをし、父の財産から葬儀費用を支出しました。相続放棄はできなくなりますか。
A 安価な身の回りの品の形見分けをしたり、常識的な範囲内で葬儀費用を支出したにとどまる場合は、相続財産を処分したとはいえず、相続放棄は可能だと一般には考えられています。ただし、債権者等が相続放棄を争うことも考えられますので、慎重な対応が必要です。事前に弁護士にご相談ください。
Q 父が死亡し、弔慰金や義援金を受け取りました。相続放棄はできなくなりますか。
A 弔慰金や義援金はお亡くなりになられた方の相続財産ではないので、これらを受け取っても相続放棄は可能です。
Q 父が死亡し、生命保険金を受け取りました。相続放棄はできなくなりますか。
A 通常、生命保険金は相続財産ではなく、相続放棄は可能です。ただし、生命保険の受取人が被相続人となっている場合は、生命保険金が相続財産となるため、これを受領して費消すると、相続を認めたことになり、相続放棄ができなくなるでしょう。
Q 健康保険、後期高齢者医療保険の葬祭費、埋葬料を受け取っても、相続放棄はできますか。
A 葬祭費、埋葬料は相続財産に含まれないため、これらを受け取っても相続放棄は可能です。
Q 死亡した父の車を相続人として廃車手続きしました。相続放棄はできなくなりますか。
A 無価値となった車を廃車としても相続財産を処分したとまでは言えないため、相続放棄は可能と考えられます。ただし、債権者等が相続放棄を争うことも考えられますので、慎重な対応が必要です。事前に弁護士にご相談ください。
(1)相続手続き一般
Q 父が震災で亡くなりました。借金の方が多いようなので、相続放棄の手続きをしたいと思いますがどこで手続きをしたらよいのでしょうか。
A 相続の放棄は、被相続人(亡くなられた方)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申立をします。申立ては郵送でもできます。
A 放棄をする方1人につき、収入印紙800円分が必要です。また、裁判所からの連絡用の郵便切手も必要となりますので、各家庭裁判所に金額を確認してください。
Q 夫が震災で亡くなりました。私と子どもが相続放棄をするには、どのような書類が必要でしょうか。
A 相続放棄をするにあたっては、相続放棄申述書に記入して提出する必要があります。
【解説】
相続放棄申述書については添付の申述書書式と記入例を参照してください。また、相続放棄申述書の他に、以下の添付書類が必要です。
@ 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
A 申述人(放棄する方)の戸籍謄本
B 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
なお、除籍謄本などの発行・取得が、熟慮期間中に間に合わない場合であっても、先に申立書を提出しておいて、あとから、書類のみ裁判所に提出することもできます(書類の追完)。
PDFダウンロード:相続放棄の申述書書式・記入例
Q 息子が震災で亡くなりました。息子は一度結婚していましたが、離婚しています。子どもはいません。母親である私が相続放棄をするには、どのような書類が必要でしょうか。
A 亡くなられた方の直系尊属である親御さんが相続人である場合、相続放棄するには、相続放棄申述書の他、以下の添付書類が必要です。
@ 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
A 申述人(放棄する方)の戸籍謄本
B 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
なお、亡くなった息子さんに死亡したお子さんがいらっしゃった場合は、Cその子の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本も必要です。
Q 弟が震災で亡くなりました。弟は独身で、私たち兄弟の親も既に亡くなっています。弟には借金しかないので、兄である私は相続放棄をしたいのですが、どのような書類が必要でしょうか。
A 亡くなられた方のご兄弟が相続人である場合、相続放棄するには、相続放棄申述書の他、以下の添付書類が必要です。
@ 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
A 申述人(放棄する方)の戸籍謄本
B 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
C 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
Q 夫が震災で亡くなり、相続放棄の手続きをしたのですが、夫の債権者に相続の放棄をしたことを証明するにはどうしたらいいでしょうか。
A 家庭裁判所で証明書を発行してくれます。家庭裁判所に備付けの申請用紙に必要事項を記入し、1件につき150円分の収入印紙、郵送の場合は返信用の切手を添えて、申立をした家庭裁判所に申請します。直接、受理した家庭裁判所に行くときは、印鑑及び受理通知書や運転免許証などの本人を確認することができるものを持参します。
Q 震災で亡くなった父にどのような財産があるかよくわかりません。借金があるなら相続したくないのですが、どうしたらいいのでしょうか。
A 限定承認をするか、相続放棄の期間の延長の申し出をしておいたほうがよいでしょう。
【解説】
限定承認の申立をしておけば、プラスの財産・権利の限度で被相続人の負債・義務を相続します。また、相続放棄の期間は延長できますので、熟慮期間内に延長の申し出をしておくとよいでしょう。これらの申立も、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所にします。申立は郵送でも可能です。
なお、相続放棄等の熟慮期間について、「東日本大震災に伴う相続の承認又は放棄をすべき期間に係る民法の特例に関する法律」(以下、「特例法」といいます。)が成立し、6月21日に公布、施行されました。この特例法により、災害救助法が適用された岩手、宮城、福島の3県全域と青森、茨城、栃木、千葉、新潟、長野県の一部市町村などの被災区域に住所を置いていた相続人については、民法上は3か月となっている熟慮期間が、平成23年11月30日まで猶与されることになりました。相続の開始時に、上記の区域に生活の本拠があったか否かを、諸般の事情から家庭裁判所が認定します。住民票がなかったからといって、特例法の適用が受けられないというわけではありません。
詳しくは、NPO遺言相続リーガルネットワークの紹介弁護士等にお尋ね下さい。
Q 父が津波で亡くなりました。相続放棄の期間の延長手続きをしたいのですが、どのような書類が必要でしょうか。
A 相続放棄の期間の延長をするにあたっては、家事審判申立書に記入して家庭裁判所に提出する必要があります。家事審判申立書については添付の申立書書式と記入例を参照してください。また、家事審判申立書の他に、以下の添付書類が必要です。
@ 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
A 伸長を求める相続人の戸籍謄本
B 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
なお、除籍謄本などの発行・取得が、熟慮期間中に間に合わない場合であっても、先に申立書を提出しておいて、あとから、書類のみ裁判所に提出することもできます(書類の追完)。
Q 相続放棄の期間の延長の申立にはどれくらい費用がかかるのでしょうか。
A 相続人1人につき、収入印紙800円分が必要です。また、裁判所からの連絡用の郵便切手も必要となりますので、各家庭裁判所に金額を確認してください。
Q 父が津波で亡くなりました。父の財産を相続したいのですが、遺産を分けるにはどうしたらよいのですか。
A まず遺言を探し、遺言があればその内容に従って分けます。遺言がなければ相続人全員で話し合って遺産を分けます。
相続財産について遺言がある場合、有効な遺言であればその遺言の内容で相続することになりますので、遺言を探します。遺言がない場合に相続人全員の協議で遺産を分割しますが、協議がまとまらない場合には、家庭裁判所に調停の申立をします。
Q 父が津波で亡くなり、遺言の封筒がみつかりましたが、自分で開封してよいのでしょうか。
A 遺言には、家庭裁判所での検認手続きが必要なものがあります。
自筆証書遺言(遺言者が自筆で作成した遺言)、秘密証書遺言(遺言者が作成し公証人と証人が封筒に署名捺印したもの)は、家庭裁判所に提出して検認手続きを得る必要がありますので、自分で開封してはいけません。公正証書遺言であれば、検認手続きは不要です。遺言書の検認を行わなかった場合は、5万円以下の過科に処せられます。
Q 父が津波で亡くなり、兄に全財産を相続させるという内容の遺言がみつかりましたが、納得できません。どうしたらいいでしょうか。
A そのような遺言があっても、兄弟姉妹を除く相続人は一定割合の遺産を相続することができます。
【解説】
特定の相続人に対して最低限度に保証されている、一定割合の遺産のことを遺留分(いりゅうぶん)といいます。そして、遺言により相続が法定相続に反して特定の相続人に片寄り、遺留分が侵害されているときは、法定相続人は遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)をして、取り戻すことができます。但し、遺留分は、法定相続人のうち配偶者、子、孫、親、祖父母に限られ、兄弟姉妹には遺留分は認められません。
Q 息子が津波で亡くなりました。息子には子どもはいませんが、籍を入れていない内縁の嫁がいて、その嫁に全財産を相続させるという内容の遺言がみつかりました。しかし、被災した私たち親の生活も苦しいため、できれば遺留分の取り戻しをしたいと思うのですが、どれくらい取り戻せるのでしょうか。
A 事実婚(内縁)であっても入籍していない以上、息子さんのお嫁さんは相続人にはなりませんから、息子さんにお子さんがいらっしゃらないのであればご両親が相続人になります。そして直系尊属のみが相続人である場合、相続人は相続財産の1/3を取り戻すことができます。
なお、直系尊属のみが相続人であるというご相談のケース以外の場合では、遺留分は、法定相続分の1/2となります。
Q 遺留分の取り戻し(遺留分減殺請求)はいつまででもできるのですか。
A 遺留分の権利者が相続の開始および減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から、1年間取り戻しの請求を行わないとき、あるいは相続開始時から10年を経過したときはできません。遺留分の権利者が相続の開始および減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から、1年間行わないとき、あるいは相続開始時から10年を経過したときに遺留分減殺請求権は消滅します。 この1年間を計算する始まりの時点(起算点)については、単に減殺の対象である贈与又は遺贈の存在を知るだけでは足らず、贈与又は遺贈が遺留分を侵害し、減殺できることを知ることを要するとされています
Q 遺留分の取り戻し(遺留分減殺請求)はどのようにするのですか。
A 遺留分減殺請求の方式にとくに決まりはありません。受贈者又は受遺者に対する意思表示だけで効力が生じ、必ずしも裁判上の請求による必要はありません。通常は内容証明郵便を送って請求します。
相手が応じなければ、家庭裁判所に調停の申立てをしたり、訴訟を起こしたりすることになります。遺留分減殺請求の詳細については、NPO遺言相続リーガルネットワークの紹介弁護士等にお尋ね下さい。
A できます。相続人全員の合意があれば、遺産分割協議をやり直すことは可能です。
Q 夫が津波で亡くなりました。相続税の申告・納税はいつまでにしなければならないのですか。
A 被相続人の遺産に対して相続税がかかる場合、相続税の申告・納税は「相続開始を知った日から10ヶ月以内」です。相続人はそれぞれ自分の相続分に応じて支払うことになります。
もし、この期限までに遺産分割協議が間に合わなかった場合は、遺産未分割の状態でも法定相続分で分けたと仮定した税額を計算して納税します。その後、遺産分割協議が終了したら、実際に相続した額で相続税を計算しなおし、不足分は追加で納税し、余分に払った分は還付を受けることができます。
また、相続税は、金銭で一括して納付することが原則ですが、相続税額が10万円を超え、金銭で納付することを困難とする事由がある場合には、納税期限までに納税者が申請することによって、年賦で納付することができます(延納)。
詳しくは、最寄りの税務署等にお問い合わせください。
(2)戸籍の取得
Q 津波で役所が流され、戸籍がとれなくなりました。どうしたらいいですか。
A 法務局で戸籍をとれます。
【解説】
東日本大震災では、宮城県本吉郡南三陸町、同県牡鹿郡女川町、岩手県陸前高田市及び同県上閉伊郡大槌町の戸籍の正本が津波等により消失してしまいましたが、戸籍法は戸籍簿の正本を市役所か町役場、副本を法務局などに保存するよう定めています。このため、役所が津波被害に遭い、正本が失われても別に保存されている副本を元に再製できます。
しかし、再製には時間がかかるため、法務省は、副本を保管している法務局において、戸籍に関する証明書などを直接発行できるよう緊急措置をとっています。なお、その後、管轄法務局において保存していた戸籍の副本等に基づき再製作業が行われ、4月25日に戸籍の再製データの作成が完了しました。今後は、戸籍の謄抄本については、各市町において戸籍情報システムが設置され、再製データを反映した後に取得することが可能となる予定です。詳しくは、下記の法務局に問い合わせください。
○宮城県本吉郡南三陸町及び同県牡鹿郡女川町について
仙台法務局民事行政部戸籍課 TEL 022−225−5734
○岩手県陸前高田市及び同県上閉伊郡大槌町について
盛岡地方法務局戸籍課 TEL 019−624−9856
Q 役場に最近提出した届出があっても、法務局で戸籍がとれるのですか。
A システム停止中に提出された届出や、今年に入って提出された届出については、副本に反映されておらず、とれない(戸籍に記載された事項の証明ができない)場合があります。
【解説】
すべての戸籍がとれる(戸籍記載事項の証明ができる)わけではありませんので、以下の点にご注意ください。
@ 戸籍正本が失われてしまった市町において、戸籍情報システムが停止していた間に提出された届出、申請については、戸籍情報システムへの記録が完了するまでの間は、戸籍情報システムへの記録が完了している最終の日までの証明書しか発行できません。
A なお、戸籍正本が失われてしまった以下の4市町に対し、次の(1)から(4)に掲げる期間に届出等をした方は、その届書等が東日本大震災により滅失し、管轄法務局においても副本としての保管がなされていませんので、4市町に対し、届出等に関する申出が必要となります。
(1) 宮城県本吉郡南三陸町を本籍地として本件4市町へされた届出等
本年1月下旬から3月11日までの間
(2) 宮城県牡鹿郡女川町を本籍地として本件4市町へされた届出等
本年1月下旬から3月11日までの間
(3) 岩手県陸前高田市を本籍地として本件4市町へされた届出等
本年1月下旬から3月11日までの間
(4) 岩手県上閉伊郡大槌町を本籍地として本件4市町へされた届出等
本年2月下旬から本年3月11日までの間
Q 戸籍をとりたいのですが、免許証など身分を証明するものがありません。
A 身分証明書がなくても本人であることが確認できれば発行してもらえます。
【解説】
戸籍謄本を取る場合、通常は免許証などの身分証明書が必要ですが、戸籍に記載がある自身の生年月日や両親の名前、本籍地などを窓口で伝えれば本人と認められます。
(3)遺言の捜索
Q 震災で亡くなった父が公正証書で遺言を作成していたはずなのですが、みつかりません。
A 公正証書遺言は、作成後、正本及び謄本を遺言者に交付し、原本を公証人役場に保管するものなので、昭和64年1月1日以降に公正証書遺言をしていた場合には、遺言書がみつからなくても、全国どこの公証役場でも検索することができます。
【解説】
公証人役場での検索、照会システムが存在し、全国どこの公証人役場からでも被相続人(亡くなった方)の遺言の有無を照会することができるのです。
照会すると、公証人から照会者に対し、公正証書遺言の有無とその保管場所(公証人役場)が伝えられるので、相続人は、公正証書遺言が現実に保管されている公証人役場に対して遺言書の謄本交付手続を行います。なお、電話での照会はできません。
Q 公証役場で公正証書があるかを調べてもらうためにはどのような資料が必要ですか。
A @被相続人(亡くなった方)が死亡したことを証明する資料、A照会者が相続人であることを証明する資料、B照会者の身分を証明するものが必要です。
【解説】
具体的には、公正証書遺言の有無を照会するには、以下のものが必要です。
@除籍謄本、死亡診断書、戸籍謄本など、被相続人が死亡したことを証明する資料
A戸籍謄本など照会者が相続人であることを証明する資料(除籍謄本に、請求人の名前が載っている場合は不要)
B印鑑登録証明書1通及び実印又は官公庁発行の顔写真付き身分証明書及び認印、パスポート・運転免許証・住民基本台帳カード(顔写真付)など請求人の身分を証明するもの
Q 父が行方不明なのですが、父が公正証書で遺言書を作成していたかを公証役場で調べてもらえますか。
A お父様が亡くなられたかわからない場合はできません。
【解説】
遺言公正証書の検索の依頼や謄本請求は、遺言した方が死亡した場合に、相続人などの利害関係を有する者が請求できるものです。遺言者が生存中は遺言公正証書の検索の依頼・謄本請求ができるのは遺言者本人のみなので、行方不明というだけではたとえ相続人であっても検索を請求できません。
Q 震災で亡くなった父が公正証書で遺言書を作成していたのはずいぶん昔のことだったと聞いていますが、それでも公証役場で検索できるのでしょうか。
A 昔の公正証書遺言には検索できないものもあります。
【解説】
日本公証人連合会の「遺言検索システム」は、昭和64年1月1日以降に全国で作成された公正証書遺言を検索・照会することができます。
(東京公証人会所属公証人作成の公正証書遺言は昭和56年1月1日以降、大阪公証人会所属公証人作成の公正証書遺言は昭和55年1月1日以降が検索・照会可能です)。従って、古い公正証書遺言には検索できないものもあります。
Q 震災で亡くなった父が自筆で遺言書を作成していたはずなのですが、どんなに探してもみつかりません。どうしたらいいのでしょうか。
A 遺言がないものとして相続人全員で遺産分割をすることになります。
遺言がみつからない場合には、相続人全員で遺産分割をするしかありません。遺産分割をしたあとに、遺言がみつかった場合には、原則として遺言の内容が優先しますが、遺言がみつかっても相続人全員で遺産分割の内容のままでよいと同意した場合にはやり直す必要はありません。
(4)預金の払い戻し
Q 地震で亡くなった人の預金を引き出すには、どうすればよいですか。
A 一般的には、払戻請求者が亡くなった預金者の相続人であることと身元を確認したうえで、以下の書類を提出して引き出します。
@預金者が生まれてから死亡するまでの戸籍謄本
A相続人全員の実印の押された払戻請求書
B相続人全員の印鑑登録証明書
ただ、銀行によって必要となる書類が異なることもあり、また、震災への対応として、ご親族と面談をして、預金者本人の氏名、生年月日や来店者の本人確認、預金者との関係等の事実を確認したうえで、10万円まで払戻しに応じるなど、柔軟な対応をしている銀行もありますので、具体的な手続については各銀行へお問い合わせください。
ちなみに、預金者本人の場合、通帳やキャッシュカードがなくても本人確認ができれば、一人1日10万円まで払戻しに応じる銀行もあります。届出印がなければ拇印でもよいというところも多いので、各銀行へご相談ください。
Q 亡くなった人の預金が、どの銀行のどの支店にどのくらいあるかわかりません。どうやって調べればよいのですか。
A 全国銀行協会の下記相談窓口で、預金者の口座の有無を一括して照会できます。
被災者預金口座照会センター
[電話番号]0120−751557(フリーダイヤル)
[受付時間]月曜日〜金曜日(祝日を除く) 午前9時〜午後5時
どの銀行に預金があるかが分かれば、その銀行に残高照会をして、どの支店にどのくらい預金があるかを知ることができます。一般的に、残高照会は、相続人のうちの一人でもできます。具体的な手続等は各銀行にお問い合わせください。
(5)相続人が未成年者の場合
Q 夫が死亡し、相続人が私(妻)と未成年の子である場合、遺産分割はどのように行うのですか。
A 家庭裁判所に対して、未成年の子の特別代理人の選任を申し立て、特別代理人が子の代理人となって、あなた(妻)と遺産分割協議を行います。
【解説】
遺産分割では、未成年者が相続人の場合、法定代理人(親や未成年後見人)が未成年者を代理して協議や調停、審判を行います。しかし、法定代理人自身も相続人の場合、法定代理人が自分の分を多くし、未成年者の分を少なくする危険があります(利益相反といいます)。そこで、そのような場合には、未成年者のために、家庭裁判所に対して特別代理人の選任を申し立てなければならないことになっています。
親権者が複数の未成年の子の法定代理人であるときも同様です。
A 親権者又は未成年後見人が、未成年者の住所地の家庭裁判所に申し立てることにより、家庭裁判所が特別代理人を選任します。
請求する際には、申立書のほか、以下の資料が必要です。
@未成年者の戸籍謄本
A親権者又は未成年後見人の戸籍謄本
B特別代理人候補者の住民票又は戸籍附票
C利益相反に関する資料(遺産分割協議書案等)
事案によっては、このほかの資料も必要となることがありますので、申立先の家庭裁判所にお問い合わせください。
Q 相続人が未成年者のみの場合は、遺産分割や相続した財産の管理はどうすればよいのですか。
A 未成年後見制度を利用する方法と養子縁組をする方法とが考えられます。
【解説】
遺産分割や契約等の法律行為は、法定代理人(親や未成年後見人)が未成年者を代理して行います。
未成年後見制度とは、両親が死亡したりしたために、未成年者に対して親権を行う者がいない場合に、家庭裁判所が、申立によって未成年後見人を選任する制度です。未成年後見人は、未成年者(未成年被後見人)の法定代理人であり、未成年者の監護養育、財産管理、契約等の法律行為などを行います。
一方、養子縁組をした場合は、養親と養子とが法律上親子となりますので、養親が養子の親権者となり、法定代理人となります。
したがって、未成年後見人の選任を申し立てるか、未成年者と養子縁組をして、未成年後見人又は養親が未成年者のために、相続の手続をしたり、相続財産を管理してあげることになります。
A 未成年者本人又はその親族、その他の利害関係人(例えば、未成年者を引き取って事実上養育している里親や施設長)が、未成年者の住所地の家庭裁判所に申し立てることにより、家庭裁判所が未成年後見人を選任します。
申立をする際には、申立書等のほか、以下の資料が必要です。
@未成年者及び未成年後見人候補者の戸籍謄本
A未成年者の住民票又は戸籍附票
B未成年者に対して親権を行う者がないことを証明する書面(親権者の死亡の記載がある戸籍謄本や行方不明の事実を証明する書類等)
C未成年者の財産に関する資料(不動産登記事項証明書や預貯金、有価証券の残高が分かる書類(通帳の写し等))
D申立人が親族の場合はその戸籍謄本、利害関係人の場合は利害関係を証明する資料
事案によっては、このほかの資料も必要となることがありますので、申立先の家庭裁判所にお問い合わせください。
A 「養子縁組届」の用紙を市町村役場で入手し、養親若しくは養子の本籍地、又は届出人の所在地の市町村役場に届け出ます。届出人は、養親及び養子(15歳未満の場合は法定代理人)です。
届出には、以下のものが必要です。
@養親と養子両方の戸籍謄本
A養親と養子両方の印鑑(養子が15歳未満の場合は法定代理人)
B家庭裁判所の縁組許可書
【解説】
未成年者と養子縁組をするには、家庭裁判所の許可が必要です。許可の申立は、養親となる者が、養子となる未成年者の住所地の家庭裁判所に、養子縁組許可申立書に、申立人と未成年者の戸籍謄本(15歳未満の場合は法定代理人のものも必要です)を添付して申し立てます。ただし、自分や配偶者の直系卑属(子、孫、曾孫)を養子とする場合は、裁判所の許可はいりません。
また、15歳未満の未成年者の場合は、法定代理人の承諾が必要となります。両親を地震で亡くして、法定代理人がいない15歳未満の子の場合、まず未成年後見人を選任してから養子縁組の承諾をしてもらうことになります。未成年者が児童相談所に入所している場合は、児童相談所長が都道府県知事の許可を得て、承諾をすることができます。
なお、養親となる者に配偶者がいる場合は、配偶者とともに養子縁組をしなければなりません。
A 特別養子縁組とは、未成年者と実親との法律上の親子関係を断ち切り、実親子関係に準じる安定した養親子関係を家庭裁判所が成立させる縁組制度です。戸籍上も養子であることが分かりません。
【解説】
特別養子縁組をするためには、養親となる者に配偶者があり、夫婦共同で養子縁組をすること、養親となる者が25歳以上であり、養子となる者が6歳未満であること等の要件があります。これらの要件を満たし、家庭裁判所が許可をすれば、特別養子縁組が成立します。
Q 未成年後見制度を利用した場合と養子縁組をした場合とでは、何が違うのですか。
A 主な違いは、
@未成年後見人は、未成年者が成人したとき(結婚により成人したものとみなされたときも含む)及び養親ができたときに終了しますが、養子縁組の場合は、離縁をするまで養親子関係は継続すること
A未成年後見人が死亡しても、未成年者は相続人となりませんが、養親が死亡すれば、養子が相続人となること
B未成年被後見人には、未成年者の財産を調査し、目録を作成しなければならず、未成年者の生活等のために毎年支出すべき金額を予定しなければならないなどの義務があり、家庭裁判所や未成年後見監督人(未成年後見人の事務を監督する者。家庭裁判所が、必要に応じて選任することができます。)が、未成年後見人が未成年者の財産を不当に処分したりしないよう監督する仕組みもありますが、養子縁組制度にはそのような義務や仕組みはないこと
が挙げられます。
(6)相続人の中に判断能力がない者がいる場合
Q 相続人の中に、認知症や知的、精神的な障がい等により判断能力がない者がいる場合、相続手続はどのように進めればよいですか。
A 成年後見人の選任の申立をし、成年後見人が判断能力のない者の代理人として、遺産分割協議に参加します。
【解説】
判断能力がない者が遺産分割協議を行っても、その遺産分割は無効となります。したがって、成年後見制度を利用する必要があります。
成年後見制度とは、本人(判断能力が不十分で保護を受ける者)の判断能力に応じて、成年後見人、保佐人、又は補助人という保護者をつけて、本人の自己決定に任せておくことが適当でない場合に、必要な限度で介入する制度です。成年後見、保佐、補助のどの段階の保護者をつけるかは、医師の意見を参考に、家庭裁判所が判断します。
成年後見の場合は、成年後見人が代理人として遺産分割に参加し、保佐、補助の場合は、本人が遺産分割に参加するものの、保佐人、補助人の同意が必要となります。
A 本人、配偶者、四親等内の親族等が、本人の住所地の家庭裁判所に、成年後見開始の審判を申し立てることにより、家庭裁判所が後見人を選任します。
申立をする際には、申立書等のほか、以下の資料が必要です。
@本人の戸籍謄本
A本人の住民票又は戸籍附票
B成年後見人候補者の住民票又は戸籍附票
C本人の診断書(家庭裁判所が定める様式のもの。各裁判所にお問い合わせ下さい)
D本人の成年後見登記等に関する登記がされていないことの証明書(法務局で発行されます)
事案によってはこのほかの資料も必要となることがありますので、申立先の家庭裁判所にお問い合わせください。
Q 行方不明者の財産は、どのように管理したらよいでしょうか。
【事例】 夫が震災で行方不明となっています。いまだ生死は不明ですが、震災前から夫名義の土地を売却する話があり、それを進める必要があります。どうしたらいいでしょうか。
A 震災で行方不明となっている方の財産を管理する方法としては、不在者財産管理人を選任することが考えられます。不在者とは、従来の住所などを去って容易に帰って来る見込みがない人をいい、そのような方の財産を保護する目的で設けられた制度です。
不在者の配偶者や相続人、あるいは債権者、検察官が、不在者の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行い、財産管理人が選任されます。
不在者財産管理人は、家屋の修繕などの保存行為や利用・改良行為を行うことができますが、不動産を売却するなどの処分行為に対しては裁判所の許可が必要となります。詳しくは弁護士にご相談ください。
Q 相続財産はあるものの、相続人がいない場合(相続放棄によっていなくなった場合を含む)には、どのような手続きをとればいいですか。
【事例】 私は、父の経営する町工場に勤めていましたが、今回の津波で工場も何もかも流されてしまい、父も亡くなってしまいました。工場は金融機関や親戚、知人からの借り入れで何とかやってきましたが、再建の目途が全く立たないため、工場は閉鎖するしかありません。父の相続人は、私や母となりますが、父が連帯保証人になっていたため、多少の財産はあるものの完済できないので相続を放棄しようと思っています。債権者にはお世話になった方々も多くいるため、債務については、何らかの手続きを採りたいと思っています。どうすればいいでしょうか。
A すべての相続人が相続を放棄すると、相続する人がいないので、残ってしまった相続財産は法人(法律によって権利義務の主体となるもの)として扱われます(民法951条)。そして、相続財産を管理するために、相続財産管理人が選任されます(民法952条1項)。相続財産管理人は、相続財産の管理と清算、そして相続人の捜索を行います(民法958条)。
相続財産管理人の選任を家庭裁判所に請求できるのは、被相続人の特別縁故者(以下のQをご参照ください)や被相続人から遺贈を受けた人、あるいは被相続人の債権者といった利害関係人や検察官です。
相続財産管理人が選任されるのは、相続人がいるのかいないのかが分からない場合で、戸籍上相続人がいない場合や相続人が相続欠格(民法891条)、相続廃除(民法892条・893条)や相続放棄(民法938条)がなされた場合です。相続人は存在するが、単に行方不明や生死不明などでは相続財産管理人は選任されないので注意してください。
相続財産管理人が選任された後の手続きは、以下のようになります。
1 家庭裁判所による管理人の選任の公告(民法952条2項)
2 1の公告から2か月経過後、管理人による債権者・受遺者に対する請求申出の公告(民法957条)
3 2の公告から2か月経過後、管理人または検察官により相続人捜索の公告請求
家庭裁判所による相続人捜索の公告(6か月以上の期間を定める)
相続人不存在の確定(民法958条の2)
4 3の公告の期間満了後、3か月以内に特別縁故者に対する相続財産分与の申立て(民法958条の3)
5 必要に応じて、管理人は、裁判官の許可を得て、相続財産を処分して現金化
6 管理人は、債権者等への弁済、特別縁故者へ分与を行う
7 財産が残った場合は国に引き継いで手続き終了
なお、遺言執行者がいる場合などでは、相続財産管理人が選任されない場合もあります。
Q 特別縁故者とは、何ですか。
【事例】 私は、亡き夫の義父と一緒に生活していましたが、今回の津波で家が流され、私だけが助かり、義父は亡くなってしまいました。私と亡き夫との間には子どもがなく、義父には親類縁者がいなかったため、夫が亡くなった後も義父の介護を10年以上続けてきました。義父には、預貯金があり、土地も多く持っていましたが、相続人がいないため、今後どのようにしたらいいのか分かりません。私も住む家もなくなり、義父から援助を受けて生活していたため、財産もありません。今後、どうしたらいいのでしょうか。
A 特別縁故者として義父の財産を引き継ぐことが考えられます。
特別縁故者(民法958条の3)とは、相続人がいない場合でも、被相続人の意思を推測して、特に縁故のあった人に相続財産を取得させる制度です。
相続人捜索の公告の期間満了後、3か月以内に相続財産分与の申立てをする必要があります。そのため、財産分与の申立てをお考えの方は、相続人捜索の公告の期間満了がいつになるかをきちんと確認し、申立ての期間を徒過しないように気をつけましょう。
特別縁故者には、内縁の配偶者、事実上の養子、亡き長男の妻、未認知の非嫡出子などが該当します。
分与の対象財産は、相続財産ですが、弔慰金は被相続人固有の権利ですので含まれません。また、共有持分も分与の対象となります(民法255条、264条の関係、最高裁H1.11.24判決)。